独占インタビュー「ラノベの素」 魚里先生『新編古典恋心中』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2026年10月9日に電撃文庫より『新編古典恋心中』が発売された魚里先生です。第32回電撃小説大賞にて「大賞」と「支倉凍砂賞」をダブル受賞し、満を持してデビューされます。持ち主に異能を与え、運命を狂わせる朱古典事件を追う少年と少女の異能譚を描く本作。古典文学を題材にした経緯や、軽快な会話劇が魅力となっているキャラクターについてなど、様々にお話をお聞きしました。

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【あらすじ】 「逢見くん、今ぼくらは期間限定のマスカットケーキを求めて歩いてるんだよね。周囲の景色がどんどん寂れていくんだけど……」「ひっかかりましたね、センパイ。本当の目的地は別にあるんす」「……ぼくを家から出すために騙したな! このぼけなす、すかたん! 君には家事手伝いという割の良いバイトを与えてるってのに、主人への忠誠心が足りないんじゃないか――」「ガルガル威嚇しないでくださいって……朱古典による事件なんです」 朱古典。実在の書物の名を冠する呪いは、持ち主に異能を与え、運命を狂わせる。その奇妙な因果に巻き込まれた男女がここに一組。これは少年少女のラブコメであり、異能譚であり、心中小説であり、そして確かに青春なのである。 |
――それでは自己紹介をお願いします。
第32回電撃小説大賞を受賞させていただきました魚里と申します。出身は埼玉県で、小説は高校生の頃から書き始めました。まったく書かない時期もありましたが、延べで言うと執筆歴は10年くらいでしょうか。好きなものは「観る将」としての将棋ですね。藤井聡太さんのファンで、藤井聡太さんの天才性にすごく惹かれています。あとは『ファイアーエムブレム』シリーズも大好きです。よく知らない方に説明すると、『ファイアーエムブレム』はシミュレーションRPGで、駒のようにユニットを動かして戦い、経験値を得てレベルアップしていくゲームなのですが、ユニットごとにレベルアップ時の成長率が設定されているんです。そのため、何度プレイしても一定の結果にならないんですね。本来は強いはずなのに弱くなってしまったり、期待していなかったユニットが強くなったりする。そういうブレのある、同じ結果にならないシステムが気に入っています。シリーズはだいたいプレイしているくらいに好きです。
――ありがとうございます。小説の執筆は高校生の頃からとのことでしたが、執筆のきっかけはなんだったのでしょうか。
小学生の頃から小説を読んでいて、すごく漠然と作家業に憧れのようなものを抱いていました。高校生の終わりに出来はひどいものだったのですが、メフィスト賞に応募をして、甘くない世界だということを思い知らされました(笑)。絶対に小説家になってやるという強いきっかけではなかったんですけど、小説を読むところから自然とステップアップしていった感じです。
――小学生の頃はどんな小説を読まれていたんですか。
母親がよく図書館で本を借りる人だったんですよ。それで自分も母親が読んでいた本をそのまま読んだりしていたのですが、宮部みゆきさんの『火車』であったりと小学生には難しい話も多く、内容を理解していたというわけではなかったと思います。それでも『火車』の最後の一文がすごく印象に残っていて、小説の切れ味というか、魅力を植え付けられたのかなと。逆にライトノベルを本格的に読み始めたのは高校生の頃で、『キノの旅』や『涼宮ハルヒ』などを読んで、こういう小説もあるんだと感じていました。
――なるほど。最初に送った賞がメフィスト賞だったということで、応募する賞に狙いはあったんですか。
そこはあまり深く考えてはいませんでしたね。森博嗣さん、西尾維新さん、佐藤友哉さんなどのメフィスト賞の作家がとても好きだったので、まずはメフィストに応募してみようという流れでした。その後、大学時代には電撃大賞にも応募するようになっていましたし、好きなジャンルを自然に選んでいった感じです。1度だけ純文学の賞にも応募しましたが、それっきりで続きませんでした。自分の指向性が、ミステリーやライトノベルだったのかなと感じますし、自分の読んで好きなものと書いて好きなものが一致しているタイプだったので、応募先を特段区別して選んでいたわけではなかったと思います。
――ありがとうございます。あらためて第32回電撃小説大賞「大賞&支倉凍砂賞」の受賞おめでとうございます。最初にお聞きしたいのですが、「大賞」受賞連絡時の伝統の洗礼はありましたか(笑)。
ありました(笑)。担当編集の方から連絡をいただいた際に「このたびは残念ですが……」という溜めがあっての「大賞です」という流れでしたね。ただ、僕はそういった慣習をどなたかのインタビューで見てしまっていて、心構えというか予備知識があったんですよ。「この流れは大賞か、他の賞でも行われるんだったか」という邪念が入ってしまい、新鮮なリアクションは取れていなかったと思います。もちろん嬉しかったですよ(笑)。
――また、今回は審査員賞との同時受賞となりました。あらためて率直な感想をお聞かせください。
「大賞」と「支倉凍砂賞」をいただけて、「出来過ぎ」というのが率直な感想です。もちろん応募する以上は受賞を目指して書くわけですけど、最良の結果すぎて「まさかこんなことになるとは……」という気持ちですね。都合のいい妄想ですら追いつかない望外の結果で、とてもラッキーだったと思います。
――支倉凍砂先生の『狼と香辛料』も非常にお好きだそうですね。
そうですね。『狼と香辛料』という作品は、自分の中で一種のお手本になっています。僕なりの分析では、ストーリーラインにあるホロとロレンスの旅だけでなく、中世西洋の商慣習や風俗、それまでライトノベルであまり発掘されてこなかったことを、地に足をつけて描かれていることが本当に凄いなと。これは支倉凍砂先生にしか書けないという信頼感というか独自性があって、確固たる地位を確立されていらっしゃると感じています。僕も受賞するなら、そういった地位を確立できるような作品を書きたいという思いがあって、ストーリー以外のもう1本の軸を、応募し続けながら探し求めていました。なので、本当に光栄だなと思います。
――そして今回は例年の電撃小説大賞とは刊行スケジュールが大きく異なっていますよね。魚里先生の作品がトリを飾ることになりました。
最初に担当編集の方とお話をした時に、「僕は大賞がトリを飾るのもいいと思う」と担当さんがおっしゃられていたんですね。なので、僕もそれで構わないと感じていました。その結果、ちょっと間が空いたなという気持ちはありましたけど、作品にとってベストを選んでいただいているわけなので、伝統を壊すのも面白いんじゃないかっていう(笑)。もちろんメリットもあって、改稿に取れる時間が非常に多かったんです。もし例年通りの2月刊行だったのなら、今の完成稿とは違う形になっていた可能性は十分にあったんじゃないかなと思います。現在の原稿がベストだと思いますし、デビュー作なので、何事もプラス思考で考えるようにしていました。
――ありがとうございます。それでは受賞作『新編古典恋心中』について、どんな物語か教えていただけますでしょうか。
キャッチコピーとして帯にも書かれている「古典×ラブコメ×異能バトル」という言葉に尽きます。物語の軸になるのが、主役である花香しのねという少女、そして彼女と対になる道徳逢見の二人ですね。日本の古典文学を元ネタにした能力や戦いに巻き込まれたり、事件を解決していく連作短編っぽいバディものになるかなと思います。

※しのねと逢見の二人が様々な怪事件を解決していく
――本作の着想や発想についてもお聞きしていきたいのですが、魚里先生は古典文学にかなりお詳しかったりされるんですか。
実は特別に詳しいというわけでも、とても大好きというわけでもないんですよ(笑)。作家の森見登美彦さんがエッセイかなにかに「竹林がぼんやりと好きだ」と書かれていたんですけど、もともと研究室で竹を研究されていた方でもあるんです。ただ、「自分は竹を研究するのが好きなわけではなく、竹を見てぼんやりするのが好きだ」とおっしゃられていたんですね。僕もそれと似たような感覚でして、古典の原文に分け入って世界を堪能するよりも、古典を好きな方が、古典を紹介するようなエッセイを読むのが好きという。「こんな話があるんだ」となり、原文を読んでみようかなとなる感じです。
――なるほど。ということは古典の原文を読まれたりは……。
読めないので積極的にはしていません(笑)。実は本作のカバーイラストには崩し字が描かれているんですけど、藤ちょこ先生から「どこを引用したらいいですか」というご相談があり、そこで初めて『曾根崎心中』の古典籍本文を読みました。一応大学時代に崩し字の基礎を習った記憶はあるんですけど、スラスラと読めるはずもなく、対照表を見ながら解読していました(笑)。
――そうだったんですね(笑)。
ただ、日本の古典文学に断片的ながらも触れていくうちに、能力バトルに使えるんじゃないかと考えるようになりました。一例ですが、『撰集抄』という作品には西行が人造人間を作るというお話があるんです。フィクションとしてはありふれた設定だと思うのですが、古典に書いているというのは、かなり説得力や魅力を感じる部分でした。加えて、電撃小説大賞は応募数も非常に多いわけじゃないですか。とにかく目立つ必要があると考え、「古典」という一言で説明ができる作品にしようとも考えていましたね。実は本作の前身にあたる小説を8年前の電撃大賞に応募しており、3次選考で落選しているんです。古典を異能バトルに使うというアイデアは、もう1度挑戦する価値があるんじゃないかと思ったのも、執筆のきっかけになりました。

※朱古典は持ち主に異能を与え、運命を狂わせる――
――ありがとうございます。受賞後の改稿作業で印象的だったことがあれば教えてください。
僕はあまり他人に読まれる形で小説を書いてこなかったので、担当編集の方についていただいて、作品のアドバイスをいただくということ自体が新鮮でした。特に印象的だったのは、演出面における考え方でしたね。本作にはいくつか山場となるシーンがあるんですけど、応募原稿では淡々としていたというか、盛り上げの演出がかなり不足していました。そういった点をご指摘いただいて、「なるほど」と思いながら改稿作業に取り組みました。ストーリー全体として、どこを読者に読ませるのかを非常に考えていただいて、僕自身もそういった視点を持てるようになったのは大きな変化だったと思います。また、応募時の原稿は4話構成でしたが、書籍では5話構成になっています。順番的には3番目のエピソードが新たに追加したものとなり、改稿で一番大きく変わった部分になりますね。
――それでは続いて、本作の主要キャラクターについて紹介をお願いします。
ヒロインでもあって主人公でもある花香しのねは、聡いぶん、ちょっと危うさもあるようなキャラクターです。ひねくれすぎていて、自分の本心が自分でもわからなくなっている感じがあります。執筆するにあたっては、タイトルの古典心中がアイデアとして先行していたこともあり、主人公の女の子が古典と心中するしかない、という考えから発展したキャラクターでもあります。今作における古典そのものを背負ったり、代弁していたりする、古典との結びつきが強いキャラクターになりますね。

※ミステリアスさとポンコツさが魅力の花香しのね
そんなしのねと対になる道徳逢見は、しのねと対極の存在にしようと考えました。バディものと言えば、凸凹コンビというか、真逆の二人が反発したり協力し合ったりするイメージが強かったので、逢見は古典に興味も関心もないけど、いい意味で行動力のあるキャラクターになっています。しのねに対しても、LOVEかどうかはともかくLIKEではありますし、映える二人組になったんじゃないかなと(笑)。

※しのねと関わりを持つことになる道徳逢見
そしてしのねの母親でもある花香みなわですが、『刃牙シリーズ』でいう範馬勇次郎的な作中最強のキャラクターです(笑)。応募原稿時はそこまで深く考えていたキャラクターではなかったのですが、しのねがみなわの貸したものを取り立てるという行動原理の根幹にいて、先代が積み重ねてきた因縁がしのねに降りかかるという構図の大本にもなっています。黒幕というわけではないんですが、結局世界の頂点にいる存在ですし、諸悪の根源と言えるような存在かもしれません。
――執筆をする上でもっとも書きやすいと感じたキャラクターは誰でしたか。
やはりしのねですね。しのねは気取ってセンスのいいことを言いたがるので、面白い言い回しや鈍感な逢見にすらグサリと刺さるようなセリフを考えている時は本当に楽しいです。また、ギャップもかなり意識していて、古典一辺倒の難しいキャラクターになりすぎないよう、生活感でポンコツな一面を見せられれば、生きたキャラクターになるんじゃないかなと考えました。俗世間からちょっと離れた部分と、スイーツ好きやガジェット好きで俗世間から離れられない部分も魅力になっているかなと思います。
――伝奇というとちょっと暗くて重たいイメージがあるのですが、しのねはもちろん、逢見との会話劇でも、クスリと笑えるカジュアルな雰囲気を感じるシーンも多かったように思います。
ありがとうございます。会話にはこだわりまして、説明台詞にはなるべくしたくないという思いが強かったです。気の合う友人同士の会話は省略も多いし、筋道が立ってないことも多いじゃないですか。でもコミュニケーションとして不自由なわけではない。小説でもそういった雰囲気を残しつつ、話の内容が伝わるよう、二人の会話を書いています。くだらないことも含めて、こんなやり取りをしそうだっていうイメージが掴みやすいので、二人の会話は延々と書けちゃいますね(笑)。

※しのねと逢見の会話にはクスリとできるシーンも非常に多い
――それでは続いて、イラストについてもお聞きしたいと思います。既に触れていただきましたが、書籍化に際しては藤ちょこ先生がイラストを担当されています。あらためてビジュアルを見た時の感想や、お気に入りのイラストについて教えてください。
しのねのキャラクターデザインを最初に見た時は衝撃を受けたというか、月並みな感想しか出てこなくて申し訳ないんですけど、本当に素晴らしく仕上げていただいたと感じました。また、しのねの制服は改造制服になっているのですが、本文で少し言及した部分を藤ちょこ先生にしっかりと拾っていただき、ブラウスとスカートに椿の模様を描いていただいたんです。それが本当に僕自身にも強く刺さりました。お気に入りのイラストは、断トツでジャケットイラストです。ラフの段階から感動する出来栄えで、しのねの華やかなイメージだけでなく、本作のエピソードに関連する小物も描いていただいています。すごいイラストを描いていただけたなと思いますね。

※魚里先生が特に印象に強く残っているというジャケットイラスト
――ありがとうございます。続いて本作の見どころや注目してほしい点について教えてください。
古典というフック、伝奇ものというフックがひとつあり、かつ会話劇の軽さも感じてもらいたいです。ライトノベルらしいライトノベルを読みたい方は、会話劇から入っていただければと思います。そしてあまり見ない古典という題材を、どう料理しているのかという興味を持っていただいた方には、その入口から作品に触れてみていただければと思います。和風に惹かれる方も一定数いらっしゃると思うので、しのねの背景や古典にそういった雰囲気を感じていただいて、楽しんでいただけたら嬉しいです。
――また、巻末には支倉凍砂先生の解説も収録されているとのことで。
賞だけでなく解説までいただいて、本当に感無量です。私の応募当時の意図や、外連味を出したいという意図も汲み取っていただいて、非常に嬉しさがありました。最後には「大きなシリーズに」という願いも込めていただきました。「支倉凍砂賞」をいただいた本作が、同じ10月に支倉凍砂先生の本と一緒に出るということにも縁を感じます。ただただ嬉しいですね。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
『新編古典恋心中』としてのお話をさせていただくと、古典のネタがもうないと嘆くくらいに続けることができたら嬉しいなと思います。個人としては、読者の方に楽しんでいただける、力のある作品を書いていきたいなと思います。
――それでは最後に本作へ興味を持った方へメッセージをお願いします。
『新編古典恋心中』は、古典という皮をかぶっていますが、中身はライトノベルらしいライトノベルだと思っていますし、純度の高いエンタメだと思っています。古典の前提知識も不要ですし、お気軽に手に取っていただけたら嬉しいです。
――本日はありがとうございました。
<了>
古典文学をテーマに様々な異能や人との出会い、因縁を綴った魚里先生にお話をうかがいました。異能バトルとしての見どころはもちろん、様々な怪事件に二人で挑む、しのねと逢見のバディからも目が離せません。新たな伝奇ものとしても注目していきたい『新編古典恋心中』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

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