『オーバーロード』Blu-ray&DVD第1巻発売記念・丸山くがね氏のツイッター投稿SSを全文掲載

どうやら眩しさのあまりに思わず目を閉じていたようだ。モモンガは恐る恐る目を開ける。

おかしな話だ。

脳とメガコンをコードで直結させているにもかかわらず、目を閉ざすなどということが出来るのだから。モモンガは慌ててる。もしかすると失明したのでは、と思ったためだ。

「…………何これ?」

モモンガはポツリとつぶやく。

どう思えばよいのか分からなかった。

あまりにも想定外の光景がそこには広がっていたのだ。モモンガが空に浮かんでいるのは、まぁ、良いだろう。先程まで〈飛行〉の魔法で空を飛んでいたのだから。

しかしながら足元に広がっているのは沼地などではない。

──廃墟だ。

それも建物が一軒や二軒というレベルではなく、集落──いやもっと広い。一つの街が廃墟と化していた。

「は?」

モモンガは不思議なぐら冷静に左腕に嵌めた時計で時間をチェックする。

0:03:45、46、47……

「は?」

もう一度繰り返し、モモンガは周囲を確認する。空には分厚く暗い雲が覆っているが、夜であるのは間違いないだろう。そして足元はまるで滅びた都のような廃墟だ。

「な、なんだこれ?」

0時は確実に過ぎている。時計のシステム上、表示されている時間が狂っているとは考えられない。

「サーバーダウンが延期した?」

無数の可能性が頭をよぎるが、どれも決定的な意見には程遠い。ただ、最も可能性が高いのは、何らかの要因――あまり好ましくないものによって、サーバーのダウンが延期したというところだろう。もしそうならGMが何かを発表している可能性がある。モモンガは慌てて今まで切っていた通話回線をオンにしようとして――手が止まる。

コンソールが浮かび上がらない。

「何が……?」

モモンガは焦燥と困惑を微かに感じながら他の機能を呼び出そうとする。どれも一切の感触が無い。

まるで完全にシステムから除外されたようだ。

「……なんだこれ?」

というかどうやって下に降りればいいのか。〈飛行〉の魔法が発動している間中出ている操作用のコンソールは何処に──探そうと思ったモモンガはそれが不要だということに気がつく。ゆっくりとモモンガは高度を下げていく。

そして難なく地面にたどり着いた。

「これは……」

モモンガは自分の骨の手を見る。自分の手だという強い実感がわく。

「なんなんだ、これは?」

先程モモンガはどうやれば〈飛行〉を上手く操作できるか感じられた。そう、まるで自分の右手を動かそうという意思が無くても動かせるように、自らの思うまま〈飛行〉を操作できるということが理解できたのだ。

あまりにも異常な事態だ。だが何よりもそんな状態に陥っているのに、平然でいる自分が少し怖い。

ふと仲間の言葉が思い出される。

焦りは失敗の種であり、冷静な論理思考こそ常に必要なもの。心を鎮め、視野を広く。考えに囚われることなく、回転させるべきだよ。

(ああ、そうでしたね)

まず最初に考えるべきはここが何処かだ。

(誰かいればいいんだが……)

〈飛行〉で上空から周囲を窺えばいいのだろうか。いや、廃墟とはいえ家屋の形を残している家々が多い。

そして不気味だ。まるで倒壊した家屋と家屋の間の細い道からこちらを窺う何かがいるような感じさえする。開けた場所に出るというのは視界が通る分、相手からも丸見えということになる。

この奇怪な状況下に遭遇し、PKを企む者がいないと思えるが、それはモモンガだけであり、謎が解明するまでできる限り隠密裏に行動した方が良いかもしれない。

ならば最初に取るべき手段はこれだろう。

〈完全不可知化〉

モモンガは魔法を発動させる。〈不可視化〉の遥かに上位の魔法だ。これで特別な魔法や能力を使ってない限り、誰にも見えなくなったはずだ。

モモンガは自分の骨の手を見て、首をかしげる。不可視化アイコンが出てないから、どうも自信が湧かない。次にモモンガはゲームであった頃のユグドラシルでは使えた特殊技術を行使してみようと思う。幾多もあるが、アンデッドを生み出す系は不可視化となっている状況下ではメリットがない。まぁ、囮に使うという意味では良いかもしれないが、この状況下では友好的に会うべき相手を警戒させかねない。

(俺の顔を隠した方がいいのか? いや、でもユグドラシルでは顔を隠している奴の方が胡散臭い……。おっと……)

モモンガは自らの特殊技術──パッシブスキルに数えられるものの一つを発動させる。アンデッドを探知する力を持つものだ。発動しないかもという思いを良い意味で裏切り、能力が起動する。それと同時にモモンガに悪い知らせを伝えてきた。

「っ!」

モモンガは体を小さくし、近くの廃墟の壁に隠れる。正確に言えば最も近くにあったアンデッド反応から遮蔽を取るような位置に移動したという方が正解だ。

(なんだ? 辺り一面にやたらとアンデッド反応があるぞ? 何処に飛ばされた?)

モモンガは壁にへばりつくような姿勢のまま固まったように動けなくなった。アンデッド反応はあっても敵の強さまで分かるわけではない。最高位のアンデッドであれば〈完全不可知化〉を看破できる者もいる。手は二つ。

一つはここから──より正確にはアンデッド反応がなくなるまで離れる。もう一つはアンデッドのレベルなどを調べ、対処できる程度のレベルであれば、ここが何処か探索をする。そのどちらかだろう。ただ、ここから離れたとしてもそこが安全だという保障は何処にもない。それであればアンデッド反応で探知できるここの方が安全ではないだろうか。それにモモンガはアンデッドなので、相手が低位のアンデッドであった場合、敵対行動をとらなければ襲われないことの方が多い。

(まぁ、アンデッドしかいないのであれば、だけどな)

モモンガは〈飛行〉が使えた時と同じ感覚を蘇らせる。そして自信を持つ。

(行ける。なんでだか分からないけど、攻撃魔法も問題なく使えるという自信がある。……気持ち悪いな。自分であって自分でないような──いや、それはあとで考えるべき問題だ。それよりも〈転移〉が出来るなら逃げる手段はいくらでもある。いざとなったら上空への転移で距離を取って逃げればいい)

モモンガは周囲を見渡し、視界が通らないような場所を探す。丁度運の良いことにすぐ近くにある家屋はまだまだ壁もしっかりしており、身を隠すにはもってこいの場所に思われた。

モモンガはそこまでダッシュし、亀裂の走った壁に開いた穴より中に入る。

「……崩れないよな」

天井は抜けており、足元に積み重なっている。とはいえ、四方の壁はまだまだそれなりに健在だ。

魔法を発動させようと思ったモモンガはそこで疑問に思う。なんというかあまりにも文化レベルが低いのだ。家屋は鉄筋もコンクリートも使っていない。足元に積み重なっているのは崩れて分かりづらいが木材のようだ。

「やはり……ユグドラシルなのか?」

現実世界の光景だとは思えない。しかしながらそうだとしたら疑問が多すぎる。ひとまず問題を棚上げしたモモンガは魔法を発動させる。

〈遠隔視〉

魔法の感覚器官が作り上げられ、それがふよふよと飛んでいく。透明化看破を持つアンデッドだと最悪だが、それ以上に探知阻害や情報収集系魔法に対する反撃手段を持つ者がいないことを祈るほかない。

「なんだこれ……」

まるでユグドラシルの時とは違う光景だった。

ユグドラシル時代であれば〈遠隔視〉によって生じた視界は、画面として端っこに浮かび上がった。ちょっと小さかったりするので必要なときは画面を大きくすることもあった程度のものだ。しかしながら現在、まるでもう一つの視界が同時に展開されている。

奇妙というか奇怪すぎる感覚だった。しかしだからと言って問題があるわけではない。平然と、ごく当たり前のように操ることができる。まるで完全に自分が変わってしまったような、そんな感じさえあった。モモンガの僅かな混乱を無視し、〈遠隔視〉がアンデッドの姿を捉える。  名前は「ゾンビ」。名前の色は青。レベル的に相手にもならない程度のものだ。そのままモモンガは周囲のアンデッドを調べていく。どれもこれもゾンビだ。

モモンガは「ふぅ」とどうやってか知らないがため息をつき、〈遠隔視〉を解除する。そして維持にMP消費が激しい〈完全不可知化〉もだ。

自分の力がどの程度かには確証がないが、魔法がそのままの強さで使えるのであれば何の問題もない。出来れば一体ほどゾンビを殺して強さを確かめたいが、それをするとこの廃墟都市内のすべてのアンデッドが敵に回る可能性も存在する。

ゾンビであればモモンガが同じアンデッドであるので襲いかかってこない確率の方が高いのだし、ここは情報収集を優先させるべきだろう。

行動を決定したモモンガはこの廃墟都市を調べようと動き出す。

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