『オーバーロード』Blu-ray&DVD第1巻発売記念・丸山くがね氏のツイッター投稿SSを全文掲載
調べれば調べるほど分かったことは文化レベルが低いということだ。まるで映画か何かのセットのように、現代機器という物が一切置いてない。線などは地中に埋めているかもしれないが、それでもこれでは生活ができるはずがないというレベルだ。
竈なんてユグドラシル以外では初めて見た。
「──ユグドラシルか。いや違うな。あまりにも違う」
薄々とモモンガは気がついていた。
これは決してゲームではあり得ないことに。だが、そうなると自分はなんだ、ということになる。まずこの骨の体でどうやって動いているというのか。今までの自分を培っていた常識など既に崩壊しているが、まだこの新しい常識に付いていけないモモンガは大通りに出る。見ればこの都市の主なる通りらしく、ずっと見て行けば門のような物が見えた。のような、というのも崩壊しているからだ。
「しかし、なんだ? 爆発でも起きたにしては完全に倒壊しているわけでもない。台風でも通り過ぎたのか?」
この都市の歴史に思いをはせたモモンガはふと、一つの反応に気がつく。
「何?」
アンデッドの反応が遠ざかっていくところだった。
「……これは?」
ゾンビの移動速度ではない。何かが駆けるような速度で、しかも自分から遠ざかっていく。
モモンガは目を細める。
ゾンビではあり得ない、知的な行動だ。
「逃がさんよ、情報源」
ふわりと体が中空に浮かんだ。走るよりも〈飛行〉の方が早い。相手はジグザグに移動しているのでどうやら都市の構造に熟知しているようだが、その差は飛ぶことで打ち消す。空から一直線に相手に向かって追いかけるモモンガは一つの影を捉えた。フードつきのマントを着た小柄な人影が後ろを幾度も振り返りつつ、狭い路地を駆けていく。
モモンガはその人影の前に降り立つ。たまたま後ろを振り返っていたタイミングであったため、その人影はモモンガの体にぶつかる。小柄な人影はぶつかった衝撃を殺しきれず、トスンと尻をついた。フードの下から金の髪がこぼれて見えた。
「……こんばんわ、曇ってはいるが良い夜だな」
「ぃっ」
挨拶に対する返答はなく、ただ息を飲む音だけが聞こえた。
「幾つか聞きたいことがあるんだが、構わないかな?」
フードの下からモモンガを上目使いで見つめる真紅の瞳があった。
(子供か? ストリートチルドレン……にしては臭いがない。まぁ、アンデッドだからだとは思うが……いや、小ざっぱりしすぎているな)
「……もう一度聞くぞ、幾つか聞きたいことがあるんだが、構わないかな?」
子供はぶんぶんと首を縦に振る。
「……私は……鈴木悟というがお前──君の名前は?」
真紅の瞳が円を描いたようだった。
「……ぁ、ぅ……ぁ……ぁ」
発せられたのは掠れたような声であり、子供が何を言ったのかはさっぱり聞き取れない。
(日本語ではない? プレイヤーでもないのか?)
「お前の名前は?」
「……あ、ぅ……あ……ぁ」
少し馬鹿にされているような気もしたが、外国の名前というのはそういうものなのだろう。
「あうああ、か? 変わった名前だな……ん?」子供が首を横に振っている。「違うのか? ではもしかして喋れないのか?」再び首が横に振られる。
そして必死に声を出そうとしているようだが、まるで意味のある言葉には聞こえてこない。
「親は何処に……」
ここまで言ってモモンガは相手がアンデッドであることを思いだす。親などいるはずがない。しかしながら子供の反応は少し奇怪だった。俯き、そして頭を振ったのだ。
まるでいたけど、いなくなったような反応だった。
(……どうしよう)
それじゃ、と言って別れた方がいいのだろうか。奇妙な発音を繰り返す子供を見下ろしながらモモンガが考え込んでいると、非常に小さく意味のある言葉が聞こえてきた
「──ィーノ・──ァスリス・インベ──ン」
繰り返し聞こえる言葉はやがて明確にモモンガに意味を教えてくれた。
「なまえはキーノ・ファスリス・インベルン」
それは少女の名前だった。
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