『オーバーロード』Blu-ray&DVD第1巻発売記念・丸山くがね氏のツイッター投稿SSを全文掲載

TVアニメ『オーバーロード』のBlu-ray&DVDが9月25日に発売され、著者である丸山くがね氏が翌9月26日に記念SSをツイッターにて公開していたことをご存じだろうか。ツイッターでは140文字の制限があり、70以上に分けて公開されたSSに関して、ツイッターというスピードの速すぎるメディアから、より多くの方の目にも留めることができるよう、丸山くがね氏より全文掲載の許可をいただいた。まだ読んでいない方はもちろん、あらためて読み直したい方は、ぜひ活用していただければ幸いだ。

オーバーロード9

※注意事項(丸山くがね氏のツイッターより)

・誤字脱字などの推敲は行われていません。

・原作小説8巻まで目を通していないと意味不明です。

・二次創作的な気分で読んでください。

玉座に腰掛け、僅かな満足感と倍する羞恥心から目を逸らし、室内を見渡したモモンガは、眼下でセバスとメイドたちが固まって立っているのに気が付く。棒立ちというのもこの部屋ではすこし寂しいものがある。確かこんなコマンドがあったような、モモンガは昔見たことがある命令一式を思い出しながら、片手を軽く上から下へと動かす。

「ひれ伏せ」

アルベドにセバス、そして六人のメイドは一斉に片膝を落とし、臣下の礼を取る。

これで良い。

モモンガは左手を持ち上げ、時間を確認する。

23:55:48

ぎりぎり間に合ったというところか。

恐らく今頃ひっきりなしにゲームマスターの呼びかけがあったり、花火が撃ちあがったりしているのだろう。そういったすべてを遮断しているモモンガには分からないが。

モモンガは背を玉座に任せ、ゆっくりと天井に顔を向ける。

最高難易度を誇るダンジョンだからこそ、この最終日に乗り込んでくるパーティーがいるかと思っていた。

待っていた。ギルド長として挑戦を受け入れるために。かつての仲間達全員にメールを送ったが来てくれたのはほんの一握りだ。

待っていた。ギルド長として仲間を歓迎するために。

「過去の遺物か――」

モモンガは思う。

今では中身が空っぽだ。それでもこれまでは楽しかった。目を動かし、天井から垂れている大きな旗を数える。合計数四十一。ギルドメンバーの数と同じであり、それぞれのサイン。モモンガはその旗の一つに骨の指をむける。しかし、その手は途中でピタリと止まる。

(──こんなことしている暇はないじゃん!)

モモンガはある計画の準備をしていたことを思いだす。最後を派手に締めくくるための計画を。

誰も残ってくれる人はいなかった。皆、当たり前の、現実の世界を優先した。ごくごく当たり前ではあったが、モモンガ的には非常にさみしい思いだった。だから忘れていた。ガタっと音を立て、モモンガは勢いよく立ち上がる。

(行かなくては! せめて! 俺だけでも、俺だけでも派手に終わらせてやる!)

時間はもうない。

モモンガは即座に右手の薬指に嵌めた指輪の力を起動させる。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを弄り、転移先一覧を浮かび上がらせる。一番上に来ているのは自分の部屋だが、なんでこんなところに配置しているんだと、モモンガは苛立ちながら一覧をスクロールさせていく。

「あった!」

喜色に彩られた声が出た。目的である地表部への最寄の転移先を見つけ、即座に押す。

瞬時に転移が行われ、飛んだ先は大きな広間だ。左右には遺体を安置する――現在は無いが――細長い石の台が幾つも置かれている。床は磨かれたような白亜の石。後方には下り階段が続き、行き止まりに大きな両開きの扉――ナザリック地下大墳墓第一階層への扉がある。この場こそ指輪の力で転移できる最も地表に近い場所、ナザリック地下大墳墓地表部中央霊廟である。

「急げ!」

モモンガは叫び、自分を急がせる。
左腕に嵌めた時計を見れば時間は──

23:58:03

──無いなんてものではない。もはや電車のベルは鳴りやみ、ドアからは空気が漏れるような音が聞こえるような状況だ。

全力で階段を駆け下りるサラリーマンのごとく、ギルド長モモンガは〈飛行〉の魔法を起動させる。

そしてナザリック地下大墳墓の外に広がる沼地目掛けて全力で飛ぶ。飛行状態の操作というのは意外に難しい。ある種、空戦ゲームを行うような感じとも言える。しかしながらとにかく飛ぶだけなら簡単な操作で済む。というより操作の必要が無い。ただ、コンソールを動かさないだけなのだから。すぐに霧が立ち込める沼地が見えてくる。

霧の中、影のようにモンスターの姿が見えるが、ユグドラシル最終日ということもあり、全てのアクティブモンスターがノンアクティブ化している。そのために攻撃したりしないのであれば襲われることは無い。

(だから、侵入者が来ると思ったんだけどな。グレンベラ沼地をリソースの消費なく突破できるんだから)

だが誰も来なかった。

モモンガは目を細め──表情は動かないが──目的となる沼地に浮かぶ島に到着する。

奇妙な島だ。円筒形の筒のような物がとにかく並べられている。モモンガは、空間から一つだけボタンの付いた棒のようなものを取り出す。

「行くぜ!」

普段の彼らしからぬ、強い口調で叫んだモモンガはボタンを強く押し込む。その瞬間、下の島に隙間が無いほど並べられた筒から、一斉に光弾が上空目掛けて打ち上げられた。

それは製作が安く販売していた花火である。

今頃大量に打ち上げられているであろうそれをモモンガは計五千発買い込み、この島に並べていたのだ。あまりにも密集して配置されていたため、打ち上げられたそれはまるで一つの塊のようですらあった。

本当であれば来てくれたメンバー達と共に眺めるつもりだった。しかし、横には誰もいない。

「……四時起きか」

上空に登って行くまるで白い柱のような光弾を見ながらモモンガは呟く。そして上空で巨大な大爆発が起こった。それはもはや花火ではない。まるで超位魔法の一つ、〈失墜する天空〉のようだった。

白い閃光が、眩しくて目も開けられないような光の塊がモモンガを包み込む。

(ああ……)

DMMOの最後がどんな感じで終わるのかは知らない。モモンガ、いや鈴木悟という人物はユグドラシル以外のゲームをやっていないから。しかし、決して希望に満ちた終わり方ではないはずだ。突然、ぶつっと切れるように現実の世界を突きつけられるに違いない。

それでも──

(光に包まれて終るのであれば、少しは気持ちが良いものだな──)

数秒後には現実が突きつけられる。それでもこの一瞬はまさに鈴木悟という人物の楽しみが具現したようだった。

1ページ目

ランキング

ラノベユーザーレビュー

お知らせ